最新刊!『王朝物語文学の研究』
久下裕利著
『王朝物語文学の研究』を推薦します
三 角 洋 一
久下裕利氏は研究者として出発した極初期より、『源氏物語』か
ら『狭衣物語』『夜の寝覚』『浜松中納言物語』まで、王朝物語の
史的全体像を見すえ続けてこられた方である。その研究方法も、
本書の範囲内で挙げるだけでも官名形象論から主題論、本文表現
史に及んでいる。しかも氏の視野のうちにはかならず、王朝後期
までに制作された散逸物語の数々がしっかり収められており、そ
れが史眼を深め分析の精度を高めていると実感される。
氏の論文は、主体的な問題発掘にもとづくものであれ、研究史
的な問題整理に始まり進展をはかるものであれ、対象や問題に即
したアプローチの方法を十分検討し、方法自体の可能性と限界に
ついても内省を欠かすことなく、論旨もきわめて明晰であり、な
おかつ論述の過程では寄り道も厭わず、さまざまな言及が付け加
わるので、豊穣な成果がもたらされるのであろう。
物語文学に取り組む研究者で、章題「蔵人少将について」、「『源
氏物語』第二部主題論─父桐壺帝との出会い」、「『夜の寝覚』の世
界」、「『浜松中納言物語』の世界」に興味をおぼえない者はいない
と思われるし、本文の扱いの難しい『狭衣物語』につき、揺れの生
じた要因を整理する氏の提言には、物語の本質にかかわって今後の
指針となる重要なヒントが詰まっているような気がしてならない。
(東京大学名誉教授)
- 第Ⅰ部 王朝物語官名形象論─物語と史実と
第一章 民部卿について
第二章 兵部卿宮あるいは式部卿宮について
第三章 内大臣について
第四章 宰相中将について
第五章 蔵人少将について
第六章 尚侍について
第七章 一品宮について
第八章 女院について
─創設期の詮子・彰子を中心として─ - 第Ⅱ部 『源氏物語』論─本文表現史の視界
第一章 『源氏物語』の日常と非日常性
─年中行事の円環あるいは宴の喪失─
第二章 『源氏物語』第二部主題論
─父桐壺帝との出会い─
第三章 竹河・橋姫巻の表現構造
第四章 客人(まらうと)薫
─『源氏物語』第三部主題論序説─
第五章 『源氏物語道しるべ』の古系図について - 第Ⅲ部 『狭衣物語』論─本文表現史の視界
第一章 フィクションとしての飛鳥井君物語
第二章 『狭衣物語』作中歌の形態について
第三章 『狭衣物語』の異文と受容との間
第四章 『狭衣物語』の改作形態について
─第二類本を中心として─
第五章 改作本としての九条家本
第六章 『狭衣物語』の古筆切について⑴
─伝蜷川親当筆切を中心に─
第七章 『狭衣物語』の古筆切について⑵
─飛鳥井雅章筆本との関連─
第八章 『狭衣物語』─本文研究の現在を考える - 第Ⅳ部 孝標女の物語─本文表現史の視界
第一章 『夜の寝覚』の世界
第二章 『浜松中納言物語』の世界
第三章 『巣守物語』は孝標女の作か
第四章 雪と月と
第五章 物語作者としての孝標女
初出一覧
あとがき
人名・事項索引
- 定価15750円(税込)
ISBN 978-4-8386-0260-5
総頁数664頁