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研究書(文学系) 詳細

新装版 蜻蛉日記

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新装版 蜻蛉日記新考

─兼家妻として「書く」ということ─
書名かな しんそうばん かげろうにっきしんこう かねいえのつまとしてかくということ
著者(編者)名 斎藤 菜穂子 著
著者(編者)名かな さいとうなほこ
ISBNコード 978-4-8386-0754-9
本体価格 8,000円
税込価格 8,800円
判型 A5判並製カバー装
頁数 288頁
刊行日 2021年6月15日
在庫 有り

新装版。並製にて少部数作成

 本書は、『蜻蛉日記』の作者道綱母が「兼家妻」として「書く」自意識に着眼し、その意味について一貫して論じてきた著者の第二論文集である。
 本書は、作者が「書く」ことの背景には「書かせる」存在(兼家)があり、それが表裏一体となっていることを指摘する。著者は『蜻蛉日記』について、藤原兼家と結婚した道綱母の人生における内的葛藤が綴られたものというこれまでの解釈に対して、作者道綱母が「書く」作品を世の読者に示すことは、夫兼家の政治文化世界に寄与することにつながる。これを自覚的におこなっていたのだと読み解くのである。著者は数ある史資料の渉猟から、作品内にみえる特有の表現を丹念に拾いあげ、当時の文化世界の様相と作者の内面の双方を見据えて、如上の主張を展開する。

 『蜻蛉日記』研究は、個としての道綱母の内面に注目が集まりがちで、作者道綱母の社会的存在についての言及はさほど積極的には行なわれてこなかった感がある。しかし、著者は『蜻蛉日記』を『とよかげ』『多武峰少将物語』等を輩出した当時の「文化面での九条流の優越を後宮や貴族社会に宣揚すること」(本書「まとめ」237頁)を意図したものだと位置づける。この点はもっとも力点が置かれたところであり、研究史上に新たな息吹をもたらす考察であろう。

 兼家の「書かせる」意志は、道長(『源氏物語』)へ、頼通(『更級日記』『四条宮下野集』等)へと受け継がれ、九条流摂関の豊饒な文化世界を現出させた。その大きな画期として『蜻蛉日記』があったことを、本書は全編で語っている。

 表題の「新考」にふさわしい、新鮮斬新な論集が刊行された。

  はじめに
Ⅰ 上巻における〈兼家妻〉としての社交の様相
 第一章 時姫との「真菰草」の贈答歌考
       ─端午の節句時の交際として─
   一 時姫との最初の贈答歌
   二 『蜻蛉日記』の日付表記
   三 「五月三四日」に「菰」を「刈る」こと
   四 『蜻蛉日記』における端午の節句
   五 兼家の妻同士の交流として
 第二章 上巻の御代替わり考
      ─兼家の妻としての行動─
   一 ふたつの御代替わり
   二 東宮妃怤
子への贈り物
   三 村上帝崩御と東宮の即位
   四 貞観殿登子と藤原佐理の妻
   五 東宮の母代わり貞観殿登子への贈り物
   六 兼家の妻としての自意識


Ⅱ 安和の変をめぐり構成される記事
 第三章 小弓の記事における「柳の糸」と「柳のまゆ」の
     贈答歌考
      ―「眉」と「繭」の掛詞をめぐって―
   一 小弓の記事の位置
       二 「山風の」歌の「柳の糸」
   三 「かずかずに」歌の「柳のまゆ」
      ─「柳の眉」の表現─
   四 「かずかずに」歌の「柳のまゆ」
      ─「柳の繭」の表現─
   五 『枕草子』の「柳─まゆにこもる」
       六 「柳の眉が開く」という表現
   七 「かずかずに」歌の意図
   八 安和の変の直前の和歌
 第四章 中巻の「桃の節句」と「小弓」の記事について 
      ─安和の変の直前に書かれたこと―
   一 安和の変の直前記事
   二 転居直後の「桃の節句」と「小弓」の記事
   三 道綱母の侍女と兼家の従
   四 漢籍を取り込む詠歌
   五 道綱母と兼家の不在
   六 読者に向けた言辞
   七 世間の詮索から夫と子を守る
 第五章 安和の変直後の長精進と病臥
      ─正五月と閏五月の対応─
   一 特異な安和の変の記事
   二 兼家の長精進
   三 道綱母の長患い
      ─「蓮の実一本」と独詠歌─
   四 道綱母の長患い
      ─遺書─
   五 兼家と道綱母との心の通い合い
   六 事件と無縁の表現世界
   七 愛宮への長歌へ
 第六章 兼家の御嶽詣
      ─安和の変後に求められた加護─
   一 兼家の物詣で
   二 当時の御嶽詣
   三 当時の政治状況における兼家
   四 『蜻蛉日記』における御嶽詣の記事
   五 屏風歌詠進とその後の朧化的な記事
   六 安和の変後の仏教事績
   七 上巻の「横川」との関係
   八 兼家の妻として「書く」こと
 第七章 愛宮への長歌と「多武峯より」との関わり
      ─喚想される過去の悲劇─
   一 「多武峯より」とされること
   二 『多武峯少将物語』と道綱母
   三 長歌の「ながめかるらん」
   四 反歌の「蓬の門」
   五 地の文の「桃園」
   六 安和の変の悲嘆の相対化
 第八章 愛宮との贈答歌記事と屏風歌記事の意味
      ─安和の変後の御代替わり期として─
   一 愛宮への長歌との差異
   二 道綱母の贈歌
   三 愛宮の返歌
   四 道綱母の再びの贈歌
   五 優位な立場の道綱母
   六 直後の屏風歌記事
   七 歌詠みの〈兼家妻〉という位置


Ⅲ 安和の変後の新たな方向性
 第九章 中巻の「内裏の賭弓」の意義
      ─小弓の記事との関係から─
   一 特異な賭弓の記事
   二 小弓の記事と賭弓の記事
   三 ふたつの記事の類似
   四 ふたつの記事の差異
   五 小弓の記事を塗り替える賭弓の記事
   六 〈道綱母〉としての認知
   七 〈兼家妻〉への願望
   八 夫を待つ日々へ
 第十章 下巻の正二月・閏二月の漢詩文的表現群
      ─つくり出された春の情景─
   一 下巻の漢詩文的表現
   二 二月末の漢詩文的表現
   三 閏二月末の漢詩文的表現
   四 月末の漢詩文的表現ということ
   五 日付がないこと
   六 下巻世界と正二月・閏二月の対応

まとめ 『蜻蛉日記』における「書く」ことと
    〈兼家妻〉としての自意識
   一 兼家主体の書き出しと同時代作品との関わり
   二 序文 ─すでに「書い」たものの示唆─ 
   三 〈書く〉方法 ─対照的なあり方─
   四 〈書く〉方法 ─包摂的なあり方─
   五 悲嘆の叙述と「書く」構造と

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